民族共生による貧困女性生計向上プロジェクト~収入向上と栄養改善を目指して(実施中)

2021年3月にスリランカのマータレー市で貧困層の収入向上と栄養改善を目指し、「民族共生による貧困女性生計向上プロジェクト」を開始しました。この事業は、アジア生協協力基金と庭野平和財団から助成金を受けています。マータレー市は、TLAG代表の石橋が20年以上前にJICA青年海外協力隊で活動した地域です。同市からは、この事業について行政的な協力とバックアップを得ることができました。

 

スリランカでは、タミル人の独立を目指すLTTE(タミル・イーラム解放の虎)と政府軍の間で26年にわたり内戦が続きましたが、2009年に政府軍がLTTEを制圧し、内戦が終結しました。その後、同国では順調に経済発展が進みましたが、一方で貧富の差が依然として存在し、特にタミル人に貧困層が多いのが現状です。また2019年には、スリランカの複数地域で教会やホテルを狙ったISによる同時爆弾テロがあり、日本人1名を含む260名以上が犠牲となりました。このテロにより、被害のなかった地域でもムスリムに対する根拠のない噂が流布し、民族間に微妙な変化が生まれたと言われています。

 

マータレー市には、多数派民族のシンハラ以外にタミルやムスリムの人々も多く暮らしています。TLAGは、マータレー市でシンハラ、タミル、ムスリムの貧困層の生計向上を図り、民族に関係なく協力して活動することでスリランカの民族融和に貢献したいと考えています。また外で働くことが難しく、安定した職を得にくい女性たちに収入を得る機会を創ることを目指しています。

 

事業は当初2020年4月に開始する予定でしたが、Covid-19のパンデミックの影響を受け、日本人スタッフが現地に渡航できず一旦延期となりました。その後、コロナ禍で何ができるか現地スタッフらと検討を続けた結果、まずはできる地域からできることを始めようと、貧困層の多いタミル地域の各家庭でオーガニックの野菜や植物を育てることにしました。一部は家庭消費として、上手く育てられた植物は販売し収入向上につなげる計画です。

 

2021年7月には、オーガニック農業と農業ビジネス支援の現地専門家から協力を得て、コミュニティで女性を中心とした住民メンバーに研修を行いました。住民メンバーが地域に自生する植物の葉を事前に収集し、その葉液を活用した有機肥料を作りました。またマータレー市の貧困層は土地が狭い家庭が少なくないため、広い土地がなくても垂直に栽培できるCultivation Towerの農法を導入しました。

 

研修では、スリランカ政府のコロナ対策ガイドラインに則り、マスク着用、手指消毒等の感染対策をしています。また一度の研修が多人数にならないようにグループを分け、座学研修も屋外で行いました今後は、住民メンバーが研修で学んだことを実践し、適切にオーガニック植物を育てていけるように毎週モニタリングすると共に、状況に合わせたアドバイスが大切になると考えています。

 

スリランカはコロナ感染者数が急上昇し、マータレー市のコミュニティでも感染者が報告されるなど今なお予断を許さない状況です。しかし、かつて協力隊時代に共に活動した信頼できる現地スタッフと、コロナ禍でも惜しみなく協力してくれる仲間がスリランカで頑張っています。これからも現地と力を合わせ、この苦境を一緒に乗り越えていきたいと思います。

 

(2021年8月)